日本は土地本位制
<2005.09.17>
世界大恐慌が原因で、主要各国が金本位制度を離脱していき、金の保有量とは関係なく通貨を発行する管理通貨制度へ移行しました。
日本の管理通貨制度は独特な制度をとってきて、それは言うなれば「土地本位制」ともいえるものです。
他国では銀行から融資を受ける際、重要視されるのが事業収益性です。その事業でどれだけ利益が出せるかがポイントとなります。
しかし、日本の場合は、融資を受ける際、担保となる土地をどれだけ持っているかがポイントになります。それは「地価は値上がりし続ける」という土地神話に根ざしたものでした。
高度経済成長期には地価が値上がりし続けたので、「借金をして土地を買っても、将来、土地は値上がりしているので、売れば借金を返済してもまだお釣りがくる」と、皆がそう思い込んだのでしょう。
バブル【※1】の時代には、無理にでも借金をして、そのお金で土地を購入し、その土地を担保にまたお金を借りる、そのお金でまた土地を購入し…という土地投機が盛んになりました。
土地の値段が上がれば、それだけ融資も増え、市中に出回るお金の量も増えたわけです。
バブルの末期には、東京23区の地価で米国全土が購入できるほどになり、お金の量も膨大に膨らんでいました。
投資が活発となり景気は好調になりましたが、実体経済の成長を伴わないバブル経済であったため、やがて縮小することになります。
上がり過ぎた地価は、投機に関わっていない一般市民からマイホームを買う夢を奪っていき、批判が高まってゆきます。
暴沸した地価を抑えるため、1990年3月に大蔵省から土地関連融資を抑制する、いわゆる「総量規制」が通達されました。
これにより土地神話は崩壊。
地価は1991年頃から下落に転じ、バブル時代に土地を担保に融資された債権は、地価の下落によって担保が融資額を下回る事態になりました。
多額の借金をして土地投機をしていた人たちは、地価が下がれば売ることができません。売っても借入金+利子の金額を下回るので損をしてしまいます。こうして売ることもできず、借入金の返済もできない、開発もされないで、いわゆる「塩漬け」にされているうちに、地価はさらにどんどん下がってゆきます。
1990年代に入り、商業用不動産が全国平均で83%も下がっていきました。こうして返済されないお金が不良債権となり、銀行の経営を悪化させることになります。
【参考】6大都市市街地価格指数 (財)日本不動産研究所HPより
http://www.reinet.or.jp/jreidata/a_shi/pdf_file/0505_26large.pdf
バブルの崩壊は銀行だけでなく企業も巻き込むことになります。
多くの企業はバブルに踊り、金融機関から借りたお金や本業で得た利益を投機につぎ込んでいました。
その金融資産は、借り手の返済能力を超えたとたん「不良資産」となってしまいます。企業が倒産すれば、これまでの融資も回収できなくなり、銀行の不良債権と化します。
また、本業のみで健全に経営していた企業も、経営が苦しくなった銀行が「貸し渋り」といわれたように、これまでのような融資をしなくなり、黒字経営なのに資金繰りができなくて倒産するという事態も発生しました。
また、融資していたお金を強引に返済させる「貸し剥がし」というのもおこなわれ、貸し剥がされた企業は倒産。これでまた銀行の不良債権が積み重なります。
【参考】全国企業倒産 帝国データバンクHPより
http://www.tdb.co.jp/report/tosan/index.html
こうして積みあがった不良債権は、いったいいくらあるのか?
金融庁によれば、2003年3月末の民間金融機関の不良債権残高は44兆5千億円となっていますが、不良債権処理を進めれば進めるほど倒産企業が増え、さらに不良債権が増加している状態ですので、本当の数値はどれだけになるのか誰にもわからないと言われています。
【参考】不良債権処分損の推移 金融庁HPより
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/15/ginkou/f-20030801-1/04.html
また、地価の下落と株価の下落は、企業が持つ資産の減少をもたらし、いくら売上げをあげてもバランスシートの赤字はなかなか改善されません。
平成14年度の「経済財政白書」によると、バブルが崩壊した1990年以降、土地と株式の資産価格が大幅に低下し、日本全体で累計1158兆円のキャピタル・ロス(保有損)が生じたと試算されています。
実に毎年100兆円もの資産が日本から消えてなくなっていたのです。
これだけの資産が消え失せたというのは世界の歴史をみても前例がないほどで、戦争や帝国の滅亡の際にしか起きないような損失です。
内訳をみると、このうち土地が734兆円、株式が424兆円。
経済主体別で見ると、最も損失が大きかったのは家計で合計437兆円にもおよびます。
これもまた金額が大きすぎてピンとこないと思いますので、一般市民の身の丈にあった数値に置き換えて例をあげてみますと
「年収500万円のサラリーマンが、住宅を建てようと一生懸命働いて貯めた1339万円を落として無くしてしまった」
ということになります。そして、地価は今なお下落を続けているのです。
当時、米国の対日貿易の赤字が拡大し、それを是正するために「ドル安・円高」政策を採ることになりました。これにより急激な円高が進行。1ドル240円前後だった為替相場が、数年で1ドル120円台にまでなりました。
米国から見れば、この為替変動によって赤字を半分返済したようなものです。日本政府は、円高による打撃を受けた輸出業界を救済するため、金融緩和を実施しました。この時ダブついたお金が投機を加熱。特に株と土地への投資が盛んになり、急激に値上がりしはじめます。