あとがきにかえて−もうひとつのお金がつくる、もうひとつの世界−
<2005.10.04>
エコノミーとエコロジー、この二つは現代では相反するもののようにみえますが、両者に共通する「エコ」の語源は、ギリシャ語の「オイコス」という言葉です。
「オイコス」とは「家族」や「家」「地所」「領土」を意味します。
エコロジーの語源は、オイコスとロゴス(精神・科学・言葉)がくっついたエコロゴスで
「基底となる原理、精神、あらゆることの根拠」
のこと。
エコノミーの語源は、オイコスとノモス(法・慣習)がくっついたエコノモスで
「領土を運営する規則」
のことです。
こうしてみると、前提としてエコロジーがあり、それを運営するルールとしてエコノミーがあることになります。
しかし、現代では、その前提を壊しかねない勢いでエコノミーが優先され、そのルールも弱肉強食という非常に原始的なものとなりつつあります。自然界は確かに弱肉強食の世界でもありますが、同時に棲み分けの世界でもあります。弱者は弱者なりに生きていける領域があるものです。
私の提案した地域通貨システムは、この「弱者は弱者なりに生きていける領域」をつくるものだと思います。非常に消極的に思われるかもしれませんが、現在、地球上の80%の人間が経済的弱者の領域に入っています。この弱者が経済的に自立できた時、どんなことが起こるでしょう?
世界は相互依存的な関係で成り立っています。支配する人、搾取する人がいるから支配される人、搾取される人がいるのです。逆の見方をすれば、支配される人、搾取される人がいるからこそ、支配する人、搾取する人が存在することができるのです。支配される人、搾取される人がいなくなった時、支配する人、搾取する人は存在できなくなるはずです。
さて、ここからは私の夢物語です。
日本の各地方政府が地域通貨を発行し、各地方に必要な事業を行い、その地域に住む人に仕事をつくります。仕事を必要とする人は地方にはたくさんいるので、自らの仕事のために社会的関心が高まります。どんな仕事をするかは、自分たちで決めることができます。無駄な事業をおこなおうとすれば反対にあい、本当に必要な事業がおこなわれていきます。特に、有機農業や再生可能エネルギー産業への就業者が増え、食糧とエネルギーの自給率が飛躍的に高まります。
地域通貨は、基本的にはその地域でしか使えず、もし他の地域通貨や円と交換するにしても、若干の手間と手数料がかかるように設定されているので、多くの人は、その地域で消費をするようになります。地域内でお金が循環すれば景気がよくなります。経済的に余裕が出てきた人たちは環境への関心も高まり、グリーンコンシューマーが増えていきます。環境に良いものが売れると、企業も環境に配慮した製品をつくるようになります。日本の技術力は平均して非常に高いので、これまで大企業だけがつくってきた製品も各地で生産するようになっていきます。
全国的に経済が活性化してくると税収も増え、支出も大幅に減ってくるのでプライマリー・バランスが取れるようになってきます。徐々に借金も減っていき、国家財政も健全な状態に戻ります。
財政状態が黒字になった政府は、余剰のお金で土地所有者から土地を購入し、国有地として国民に貸し出します。その土地から得た収入は、母子年金として、養育中の母子(または父子)に支払われます。経済的な家族の負担から解放された男性は、収入のための仕事ではなく、自らしたい仕事のために働くようになったり、子育てを含む家事を分担するようになったりします。
このような日本の成功をみた途上国が、同じようなシステムを導入していきます。日本は、経済的なシステムだけでなく、環境技術も惜しみなく教えます。世界の資源効率性は一気に高まり、環境維持と経済的な安定、そして文化的な生活が同時に達成していきます。貧困から解放された人たちは、武器を捨て、自分のため、家族のため、社会のために働くようになります。また、これにより日本は世界中から友好的に受け入れられるようになります。
テロリストと呼ばれる人たちがいなくなることになり、大国は軍事力を行使する理由がなくなります。軍事力が徐々に縮小していき、軍に集まっていた最先端の科学技術が民間にながれ、さらに資源効率性が高まります。かつて環境危機が叫ばれていた時の10倍以上もの資源効率を達成することになります。
こうして、全世界の人々が飢えることなく、平和で文化的な生活を享受し、人権が尊重され、自然環境も維持されていく。そんな未来を私は夢想します。
社会主義国家の崩壊は、社会システムをめぐる闘いにおいて資本主義に一時的な勝利をもたらしました。しかし、貧困と富裕の対立、そして、その結果としての経済危機と戦争が存在する限り、また、環境が経済の犠牲になって破壊されている限り、そして、先進国が途上国から搾取し続ける限りは、従来の経済システムに代わる新たなモデルを追及することは不可欠だと思います。
本書を読んだ方の中から、さらに素晴らしい経済モデルが提示されることを期待しています。
最後に、ガンジーの残してくれた言葉を記して皆さんに贈るとともに、自らの肝に銘じたいと思います。
「地球はすべての人間の必要を満たすのに十分なものを与えてくれるが、貪欲は満たしてくれない」
「戦争の原因を理解し、その根本的解決を図ろうとしない限り、戦争をやめさせようとする行動もすべて無駄に終わる。現代の戦争の主な原因は、地上のいわゆる弱い民族を搾取しようとする非人間的競争にあるのでなかろうか」
「競争ではなく、協力こそ人間本来の生き方である」
「敵と相対するときには、その敵を愛で征服しなさい」
「目的を見つけなさい。そうすれば手段はついてくる」
「世界の変化を望むのであれば、自分自身が変化を起こさなくてはならない」
「君のすることはほとんど無意味だが、それでもしなくてはならない。なぜなら、それは世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためだからだ」
「重要なのは行為そのものであって、結果ではない。行為が実を結ぶかどうかは、自分の力でどうなるものではなく、生きているうちにも分かるとは限らない。だが、正しいと信ずることを行いなさい。結果がどう出るにせよ、何もしなければ何の結果もないのだ」
〔完〕