消費の拡大による環境破壊は起きないのか?
<2005.09.29>
資本主義による大量生産・大量消費・大量廃棄が環境破壊を招いてきたことは周知の事実です。
地方自治体の地域通貨発行により、消費が促進された場合、さらなる環境破壊が起きないかと懸念されることは道理だと思います。
環境活動をしている人の中には消費を敵視する人もいますが、環境保護にもお金がかかることは事実です。
たとえば森を守るにしても、それ自体には収益性がないので投資されることはありませんから、日本の森は林業の衰退によって「緑の砂漠」と呼ばれるほど荒廃しています。その森林を再び生命溢れる森に戻すには、たいへんな労力と時間がかかります。とてもボランティアでできる作業量ではありません。ですから、それが仕事として持続的におこなわれなければ、森も持続できないことでしょう。
つまり、公的な負担をしなければ森林保護はできないのですが、いまや公的な負担ができなくなりつつあることは既に何度も触れたとおりです。
また、環境に配慮した商品や店を選ぶ消費者=グリーンコンシューマーは、高額所得者ほどその割合が高いという調査結果も出ています。さらに、景気が良い時にはグリーンコンシューマーが増え、景気が悪くなるとグリーンコンシューマーが少なくなる傾向もあります。経済的に生活が苦しい時には、環境に配慮する余裕がなくなるというのが実際のところでしょう。
ところで、エコロジカル・フットプリントという環境指標があります。
ある地域の人間の生活を支えるのに、どれだけ生産可能な土地・水域が必要かを面積であらわしたものです。
1961年から1999年の間でエコロジカル・フットプリントは80%増加しており、今や地球の生物学的限界を20%上回っています。
【参考】エコロジカル・フットプリント
http://www.wwf.or.jp/activity/lib/lpr/lpr2004/ecoprint.htm
2000年のデータによる調査では、日本のエコロジカル・フットプリントは1人当り5.94ヘクタールで、日本の消費水準を支えるためには日本全体の土地および国外の土地をあわせて2.8億ヘクタールが必要です。
つまり、世界中の人々が日本人のような暮らしをはじめたら、地球が約2.7個必要となり、逆の見方をすれば、日本人は現在の物質的消費を2.7分の1に戻す必要があるのです。
ちなみに米国のエコロジカル・フットプリントは世界最高で8.84ヘクタール。
世界中の人々が米国人のような暮らしをはじめたら、地球が約5.6個必要となります。
【参考】日本と米国のエコロジカル・フットプリント
http://www.ecofoot.jp/what/
この指標が示しているところは、世界全体で環境効率・資源効率を1.2倍、日本では2.7倍に上げていけば、地球は持続可能であるということです。
環境効率・資源効率を数倍に高めて、わずかの資源、わずかのエネルギー、わずかの環境負荷で、サービスを向上させる技術は既にあります。
環境面での技術革新について説明していると、非常に長くなってしまうので、ここでは参考となる書籍を三冊ご紹介しておくことに止めたいと思います。
- 『ファクター4 −豊かさを2倍に、資源消費を半分に−』
エルンスト・U・フォン・ワイツゼッカー他(省エネルギーセンター) - 『自然資本の経済−「成長の限界」を突破する新産業革命』
ポール・ホーケン著(日本経済新聞社) - 『パーマカルチャー −農的暮らしの永久デザイン』
ビル・モリソン著(農文協)
これらの環境技術が普及し、社会に浸透するには、多くの人が購買力を持つ必要があります。
つまり、今は消費を抑える時ではなく、環境技術が普及するような消費の仕方を工夫して促進すべき時だと思います。
たとえるなら、猛スピードで走っている車の目前に崖があり、その崖に気がついた時には加速度がついていて急ブレーキを踏んでも間に合わない。その場合は逆にアクセルを踏み込み、スピードを上げてスピーンターン(方向転換)するべきなのです。
本題から少し外れますがNPO「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」略して「足温ネット」では、省エネ家電製品を購入する人に、その省エネ製品で浮いた節電料金の5年分を無利子で融資しています。
返済は年間節電料金×5年間の分割払いです。
そうすることにより、省エネ製品購入者は、実質的な出費はないのに新製品が手に入り、省エネも無理なく達成できることになります。
【参考】NPO「足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ」
http://www.sokuon-net.org/index.html
家庭の電力消費は、エアコン・冷蔵庫・照明・テレビだけで三分の二が消費されています。
しかし、この数年で著しく省エネ性能が進歩し、冷蔵庫では8年前にくらべ平均して85%もの省エネに成功していますし、他の製品も約半分にまでなっています。最新の省エネ家電にし、消費電力の約1割を占める無駄な待機電力をなくせば、家庭での電力消費を約半分にすることも可能です。
そうすれば広さにして8畳分(現在価格で約170万円。30年の耐久として月額5000円弱)ほどの太陽光発電パネルで1家族分の消費電力をまかなうことができます。
このように省エネを徹底し、太陽光で発電した電力をキャパシタで蓄電すれば、家庭の電力は電力会社に頼らなくても充分まかなうことができるのです。
また、燃料電池の実用化も進んできているので、自然エネルギーではまかないきれなかった産業分野でも、技術的にはエネルギーを石油に頼る必要がなくなってきました。
さらに、これまで化石燃料や鉱物資源からつくってきた製品をバイオマス資源でつくる技術も確立しています。
日本は、これまで海外から材木を輸入してきたことで、緑が豊富に残っています。現在でも国土の70%近くを森林に覆われる「森の国」です。
【参考】国土利用状況
その木々は、当然、毎年成長します。たとえば年に1立方cmずつすべての木が伸びるとします。
林野庁によれば平成14年度の全国の森林資源の総数は404000万立方メートルとなっていますから、木々の増加分は年間4040万立方メートルとなります。
この年の年間木材需給量は8976万立方メートルとなっていますから、資源効率性を約2倍にすれば、日本国内で毎年成長する木材で、ほぼ自給可能となります。
その際、重要になるのが、資源の「カスケード利用」と「ゼロ・エミッション」です。
「小さな滝」を意味する「カスケード」は、質の高い方から順に段階的に利用していくことを指しています。
たとえば家として使い終えた木材を家具として利用し、家具として使い終えたら紙にし、その紙も上質紙からトイレットペーパーへと利用していき、最終的には下水処理場でメタンガス発酵させて都市ガスをつくる。
残った下水滓も堆肥として使い、元の森林に戻していく。
このように質の高い方から順に、段階的に利用することを「カスケード利用」と呼びます。
「ゼロ・エミッション」とは、産業から排出されるすべての廃棄物や副産物が、他の産業の資源として活用され、全体として廃棄物を生み出さない生産を目指すものです。
自然界では、動物も植物も食物連鎖というメカニズムの中で循環していて、廃棄物がありません。
この物質循環のメカニズムを社会活動や産業活動の中に取り込もうという試みです。
A社の副生産物をB社の原材料に転換し、B社の廃棄物をC社の再生資源に転換する。
こういう物質循環を組み合わせた新しい産業連鎖を作りだすことができれば、環境保全と産業活動とを両立させることもできると考えたわけです。
ゼロエミッションには3つの達成モデルがあるといわれています。
1つは、ひとつの産業施設内でのゼロエミッション。
ビール会社の取り組みが、その先行事例として有名です。
2つ目は、工業団地内における複数の企業によるゼロエミッション。
山梨県の国母工業団地や川崎市のゼロエミッション工業団地を例としてあげることができます。
3つ目は、地域やコミュニティが一体となって取り組むゼロエミッションで、大牟田市のエコタウン計画や「彩の国」のバイカプラント計画などにゼロエミッションの手法が採用されています。
このように、今では環境技術によってエネルギーや資源を海外に求めなくても日本で自給できる可能性が出てきているのです。
しかし、経済が滞ったままでは、せっかくの環境技術も「絵に描いた餅」になってしまうことでしょう。