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旧約聖書のユダヤ教(Judaism)はユダヤ人とキリスト教徒の信仰の祖形なのだが、「メシア」に対して二つの異なった解釈を含んでいた。共に旧約聖書の中に見出すことができる。キリスト教徒とユダヤ人の間にある分離は、それぞれの新しい信仰がその二つの解釈の片方を取り上げて支配的にしたものである。キリスト教徒にとってキリストは救済するためにやって来たが、ユダヤ教徒にとってメシアは復讐するために来るのである。この点は、ヘブライ大学のイスラエル・ジャコブ・ユヴァル(Israel Jacob Yuval)教授の最新の著書「子宮の中の二つの国(Two Nations In Your Womb[1])」の中で説明がなされている。ユヴァルが呼ぶ「復讐に満ちた救済」が、アシュケナジ・ユダヤによって昔のパリサイ派のテキストから取り出され、そしてシナゴーグの支配的な教義となったのである。
イスラエル・ユヴァル博士がエルサレムで復讐の神学に関する彼の洞察にあふれた本を出版したときに、イスラエルの学会の同僚たちには大きな熱狂で受け入れられたのだが、米国のユダヤ人学者はこれを嫌った。エツラ・フレイシャー(Ezra Fleischer)博士は強烈な批判を書いた。その中には次のような言葉がある。《そのような本は出版されなかったらよかったろうに。しかし出版されてしまったからには、忘却が宣告されるべきである。》[これは2006年6月に英語訳が出版されたばかりだ。]
ユヴァル教授は数多くの古いユダヤ教の教本をこの見地の根拠として引用する。《終りの日(メシアが来るとき)には、神は破壊し、殺し、そしてイスラエルの民以外のあらゆる国民を絶滅させるだろう》。これは13世紀ドイツのユダヤ人によって書かれたSefer Nitzahon Yashanによるものである。典礼詩人であるクロニムス・ジュダ(Klonimus b. Judah)は《ゴイムの死体であふれる神の手》の幻影を見た。
それよりももっと恐ろしい血と破壊に満ちた夢は、11世紀の終りに起こった最初のユダヤ人への襲撃に先立つものである。十字軍によるユダヤ人への猛攻の100年前に、R.シモン・イツァーク(R. Simon b. Yitzhak)は神に《あなたの剣を取ってゴイムを皆殺しにする》ように呼びかけている。彼らの破滅を急がせるために、欧州に住むユダヤの賢人たちはキリスト教徒とキリストに対して新たな恐るべき呪いの文句を採用し、過越の祭(Passover)やヨム・キップール(Yom Kippur:贖罪の祭)の典礼の中に導入した。それは2世紀にそこに組み込まれた呪いに付け加えられたものである。
その「復讐のメシア」はキリスト教神学の中で実際には別の名前を持っている。彼は「反キリスト」と呼ばれる。キリスト教神学者たちはこの黙示録の登場人物の性質を詳しく探求しようとしてきた。ダマスカスの聖ヨハネ(St John the Damascene:7〜8世紀の人物)は、反キリストはキリスト教徒とキリストに敵対して、ユダヤ人の元にユダヤ人のために現れるだろう、と預言した。(ダマスカスの聖ヨハネはイスラムの友人であり、永遠のコーランに関するイスラムの教義をロゴスについてのキリスト教的な教えの形として解釈した。)教父たちは「反キリストの出現」をユダヤ教の一時的な勝利と見なした。10世紀にはビザンチンの聖アンドリュー(St Andrew the Byzantine)が、イスラエルの王国は再建されそれが反キリストにとっての飛躍台となるだろう、と預言した。このようにして、ユダヤ教とキリスト教の神学者たちは、彼らのメシアがテーゼとアンチ・テーゼ、つまりキリストと反キリストとしてお互いに敵対しあうことにおいて、一致しているのである。
黙示録とイスラエルの親近性は米国にいる何百万人もの敬虔なキリスト教徒によって感じさせられる。彼らは反キリストの登場がキリスト再臨の前段階であると教えられている。しかし彼らは牧師たちによって誤誘導され、不合理な結論を描いて反キリストの側に立つことを決意している。彼らは次の言葉を忘れている。《人の子は己につきて録(しる)されたるごとく逝(い)くなり。されど、災いなるかな》反キリストの側につく者よ。
【訳注:新約聖書マタイ26−24:聖書では「されど、災いなるかな、人の子(=キリスト)を裏切る者よ」と述べられている。】
ユダヤ人は反キリストではない。しかし「復讐のメシア」の思想は非常に危険なものだ。そしてそれは対決し論破すべきものである。それは、旧約や新約の手段を用いて、あるいは普遍的な人間的コンセプトを用いて為されることが可能だろう。そうしなければ、この思想は我々の論調に毒を盛ることになるだろう。
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[1] publisher: alma/am oved, tel aviv, 2000, isbn 965-13-1428-1,
english translation http://www.ucpress.edu/books/pages/8335.html or cheaper: from barnes and noble http://search.
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