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米国:あるユダヤ国家

【 IV 】

米国はユダヤ-キリスト教国家(a judeo-christian state)になったのだが、ユダヤ人、イスラエルそして米国の三角関係の中で《誰が誰を支配しているのか》という問題は単純なものではない。この3名の人間ドラマはバーミューダのそれよりも不可思議で間違いなくずっと危険な三角形を形作る。半年前に、ある怪しげな情報源が、シャロンが閣議で次のように語ったと伝えた。「米国については心配するな。そこは我々のコントロールの下にある」。この言葉は否定されたのだが、しかし、パレスチナの反乱が急激にヨシュア・スタイルの絶滅作戦に転化していく間に、その一方で米国は「テロに対する戦争を支持している」のだ。疑念は膨らむ。

「ユダヤ民族("the jewish people")」(あるいはユダヤjewry、またはユダヤ人the jews)として知られる共同体的実体の存在自体がたびたび否定される。200年ほど前にはユダヤ(jewry)はフランスや教会と同じくらいに明確な形で存在していた。我々の先祖はこの超地上的な国家のメンバーだったのだ。それは一つの権威主義的な擬似犯罪集団(semi-criminal order)であり、富豪やラビたちによって運営されていた。その指導部であるkahal(ヘブライ語で共同体)が重要な決定を行い、普通のユダヤ人(jews)は彼らの指示に従った。その指導部は、ちょうどあらゆる封建領主がそうだったように、ユダヤ人の生命と財産を奪い取ることができた。ゲットーの壁の中には意見の自由は存在しなかった。反抗的なユダヤ人は死をもって罰せられた。解放の時代がやってきたとき、kahalの権力は内と外から打ち破られた。ユダヤ人たちは自由になりそれぞれの国で国民となったのだ。

現在、ヨセフを知らない新しい世代のユダヤ人が現れてきている。長年の言い訳がましい洗脳によって、彼らは、どうして我々の父祖たちがユダヤ共同体の鉄の壁を破りたいと望んだのかの理由を忘れさせられた。ユダヤの概念(the notion of jewry)は未解決の点となっている。我々ユダヤ人(jews)の子孫は、我々が住む国の国民なのか、それともユダヤ族(the jewish people)の国民なのか? 「ユダヤ(jewry)」はあらゆる国家が存在するのと同様に存在しているのか、あるいは単に言葉のあやに過ぎないのか?

ここにパラドクスがある。ユダヤ人の(jewish)指導者はユダヤ(jewry)をステルス・ジェット機のようであるように望んでいる。あるときあなたはそれを見るが次の瞬間には見えない。爆撃を受けるときにどこにも高射砲は無い。彼らは言う。「それはヒトラーが言ったことだ」、あるいは「それはあの偽書であるユダヤ長老の議定書の作者が発明したものだ」と。そして彼らはイスラエルの建国宣言にもまたそれが書かれていることを言い忘れる。イスラエルは実際に「ユダヤ民族の国家(the state of the jewish people)」として描かれている。そしてそれが、目に見える(そして国境線に囲まれた領地を持つ)ユダヤ(jewry)の部分として不相応な注意と影響を引き付けている理由なのだ。それが、テル・アヴィヴの大使としての地位が各国の外交官としてのキャリアにとって最も高く最も望ましいものであることの理由となっている。「ユダヤ民族(the jewish people)」というコンセプトは国際法の中でユニークな認識を受けた。それはユダヤ民族(the jewish people)が1950年と1991年に、現在のドイツによって遺言の無いユダヤ人たちの残余資産の受取人であると宣言されたときだった。イスラエルの刑法は、ユダヤ人個人、その健康、生命、財産および尊厳に敵対する行為を行った地球上に住むあらゆる人間を裁いて罰することを許可している。たとえそのユダヤ人がイスラエル国家と何らの関係も持たない場合でも同様である。

我々は解放された世代のユダヤ人の両親を持つ者達だが、その我々が誰よりも驚いている。ユダヤ(jewry)の奇跡的な復活に対して何の準備も無かったのだ。つい最近にそれは消え去ったばかり、実際に死刑を宣告されて、そして我々は自らを自由な人間と見なすようになったばかりなのだ。我々の生きている時代に、物事は根本的に変わってしまった。現在、我々はこの実体に忠実であることを宣言するように呼びかけられている。あるいは追放と屈辱、またはもっと悪い運命に悩むのか、である。ユダヤ(jewry:どうかこの言葉を数百万人の中世ユダヤ人の子孫と混同しないでもらいたいのだが)は世界政治にその場を回復させ、唯一の超権力である米国の精神を征服したのである。

イサァク・ドイチャーはユダヤ人のマルクス主義者でトロツキーの伝記作家なのだが、この現象に気付いたほとんど最初のユダヤ人であった。彼は「誰がユダヤ人か(who is a jew:出版the jewish quarterly, london 1966)」の中で、ユダヤ人(jews)とユダヤ(jewry)を区別するように提案した。ユダヤ人(jews)が様々な意見と生き方を持つ個人である一方で、ユダヤ(jewry)は国家機関に準ずるもの(a quasi-national body)であり独自の指導部とアジェンダを持っている。彼の意見では、ユダヤ(jewry)は姿を消しつつあったが、第2次世界大戦の灰の中から「ユダヤ(jewry)のフェニックスが起き上がった」のである。「私はユダヤ人(jews)が生き残ってユダヤ(jewry)は死んでもらいたかった。」と彼は書いたのだが、「ユダヤ人の絶滅がユダヤに新しい寿命を与えたのだ」。

よみがえったユダヤ(jewry)の自己推薦による指導部は、超富豪のマモン崇拝者【訳注:マモンは貨幣の神】たちとつながりを作り権力の絶頂を成し遂げた。彼らはそのカルトと反対者の欠如に酔いしれている。彼らは戦争犯罪人シャロンを支持するが、彼を余りにも弱いとみなす。彼らは米国の超タカ派であるポール・ウォルフォヴィッツをも不満に思った。イスラエルの政治家たちは誰でもこれを知っていて気にかける。米国にもどこにでもパレスチナでの終りの無い戦争を望むユダヤ人権力者たちがいる。彼らは第2次世界大戦にロシアと米国の軍隊によって救いがもたらされたことを理解している。それはキリスト教世界に対する彼らの個人的な勝利として、またユダヤ(jewry)の新たな世界的超権力の時代の印としてであり、それはタルムードとカバラの教えの中で約束されていたものである。

イサァク・ドイチャーはイスラエルにおける変化を彼らの影響であるとする。

《富豪の米国ユダヤ人は、ニューヨーク、フィラデルフィア、あるいはデトロイトで、キリスト教徒である仲間や友人たちに混じる「世界的な資本家」なのだが、心の中で『選ばれた民』のメンバーであることを誇っている。そしてイスラエルでは彼は宗教的な反啓蒙化と反動に都合よく影響力を行使する。彼は種族的・タルムード的な排他主義と優越性の精神を生かし続ける。それがアラブ人に向かっての敵対心を養い増殖させるのだ。》[7]

この「富豪のユダヤ人」が遠く離れたイスラエルだけに影響を与えるとするのは奇妙だろう。彼の影響力はむしろ自分の国、米国の中でより強いのである。そこで彼は同じ『種族的・タルムード的な排他主義と優越性』の思想を、アメリカの「ユダヤの(jewish)」精神と十分に調和させて、推し進めるのだ。

これらの富豪たちはパレスチナの土地など必要としない。彼らがイスラエルに移住してブドウ畑で働くことはない。彼らはイスラエルとその国民を、世界規模のゲームの中で取替えの効く道具として利用する。彼らはキリスト教徒たちの同情を弱さの印であると誤解する。彼らは彼らの親愛の情を服従であると誤解する。ネズミをくわえた猫のように、彼らはキリスト教が終に死んでしまうときを、それが反応をやめてしまうかどうかを、チェックするために生誕教会で賭けをする。同時に、彼らはエルサレムのモスクを脅かし、そして米軍の巡行ミサイルをバグダッドに導く。キリスト教とユダヤ教の代りに、彼らは新たな信仰を導入する。彼らは十字架の地位をホロコーストに置き換え、キリストの復活をイスラエル国家の創設で置き換える。彼らにとっては、キリスト教徒とイスラム教徒の聖地に対するユダヤのコントロールが、彼らの支配の目に見える証拠なのだ。両者の破壊が全面勝利のサインなのかもしれない。ある意味で彼らは正しい。一つの社会はその神聖な価値を失えば滅亡に追いやられるだろう。

多くのユダヤ人とユダヤ人の子孫たちはユダヤ(jewry)の観念に脅かされている。彼らは通常は「十把一絡げなとらえ方」や「民族全体に対する非難」つまり「ヘイト・モンガー」に反対する。最初のうち私は彼らの反応にびっくりした。後になって私は彼らの反応が他の人々によっても同様に使うことができるくらいに良いものであると思った。良いものを打ち捨てるのは残念である。例を挙げよう。

−あなたはどうしてアメリカ人が広島に原爆を落としたなどと言うのだ? 私はアメリカ人だが私は広島に原爆を落とさなかった。

−あなたは「イギリス人がインドを支配した」という。ナンセンスだ! 私はインドを支配しなかった何百人もの貧しいイギリス人を知っている。

−あなたはアルジェリアの解放を求めている。これは反フランス主義だ! 本当に違いがあるのはフランス人とアルジェリア現地人の間にではなく、文明かされた人々とイスラムの過激主義の間だ。

−ロシアの帝国主義政策? それはロシア人たちへの嫌悪を引き起こす人種主義的な難癖付けだ。

たぶんあなたはこれが馬鹿げているというように受け取るだろう。ポリシーはエリートたちによって考案され、多かれ少なかれ意識的な多数派によって実行され、アウトサイダーはその結果に苦しむ。ユダヤ(jewry)は他のあらゆる国家や国際企業と変わるものではない。ユダヤの指導部はポリシーを持っておりそれを変更できる。当然、普通のユダヤ人たちはそれに従うことも拒否することもできる。

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【脚注:注釈箇所についての著者からの補足】

[7] the israeli-arab war, june 1967, new left review, 23.6.67

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