世界貿易機関(WTO)
<2005.08.30>
世界貿易機関(WTO)は、1995年、GATT(貿易に関する一般協定)の流れを引き継いで設立されました。
関税を限りなくゼロにし、諸々の規制をなくして、企業と、その工業製品、あるいは農産物やサービスが地球規模の市場で自由に競争できるようにするということがWTOの基本的な目的です。
GATTの対象が工業製品や農産物などモノだけだったのに対し、WTOの対象は、金融・通信・サービス・知的所有権(特許など)・食料の安全基準などを含み、さらにまた紛争時の裁判権も持ちます。いわばGATTが「経済産業省」だったのに対し、WTOは「経済産業省」プラス「厚生労働省」「環境省」「農林水産省」そして「裁判所」を兼ねる機関となっています。
WTOは、その数多くの協定とともに、組織自体にも大きな問題点を持っています。
反グローバリゼーション活動をしている人たちがもっとも危険視しているWTOとは、いったいどんな問題を抱えているのでしょう。
WTOは、以下の4点を原則としています。
- 加盟国は透明性の確保とWTO協定への整合化義務を持つ
WTO加盟国は、各国の現行の法律だけでなく、貿易に影響を与えうると思われる法律、規則、規範などを随時WTOに知らせなければなりません。これらの法律や規則をWTOに対して明らかにしなかったり、WTO協定に合わせようとしない加盟国は、WTOの中にある「貿易政策審査検討機構」から注意を喚起されます。WTOは加盟国の国内法をも変えられるほどの強い力を持っているのです。
- 最恵国待遇原則
最恵国待遇とは、どのWTO加盟国に対しても、同じ関税率、同じ国内規制を適用することを義務づけることです。
- 内国民待遇原則
内国民待遇とは、加盟国が、他の加盟国の商品・サービスを、自国の生産者や供給者の商品・サービスと同等に扱う事を義務づける原則です。
- 数量制限の一般的廃止の原則
輸出入において、関税以外の措置(数量割り当てや最低価格の設定等)を原則的に禁止しています。
このような原則は、特に発展途上国に大きな影響を与えています。
1985年から始まったGATTウルグアイ・ラウンド(=交渉)以来、農産物、知的所有権、サービス貿易など様々な分野で自由化交渉が促進されてきました。しかし、WTOの原則により、途上国では、弱体な国内産業を保護するための対外規制導入が難しくなったり、公益に関する国内法が次々と退けられたりなどの弊害が起こっています。
その結果、南北格差がますます拡がることになりました。
さらにWTOの問題点として重要なものに、紛争解決機構(DSB)の問題があります。
たとえば、あるWTO加盟国Aが他の加盟国Bの貿易政策により経済的損失を受けた場合、AはBの政府との協議を要求でき、DSBがそれを調停します。60日以内に納得のいく決定が得られない場合、A国はパネル(紛争解決小委員会)の設置あるいは仲裁法廷の開催をDSBに求めます。
このパネル法廷には、次のような問題点があります。
- 「パネル法廷」は3人の貿易専門家で構成されるが、その専門家は選挙で選出された人々ではなく、当該国の政府が指名した人々である。
- パネルは非公開で行われ、紛争と関わりのない第三者的組織や個人の自発的な証言は極端に制限される。
- WTO協定のみが法的根拠となり、WTO以外の国際法(特に人権や環境に関する協定)が無視されている。
過去の判決例をみると、
- 安全性への懸念からホルモン投与された牛肉の輸入を拒否したEUに対し、高額の報復関税をかけられたケース
- 絶滅の危機に頻しているウミガメを殺してしまう漁法で採ったエビの輸入規制に対し、ウミガメ保護の法律がWTO協定に違反するという判決を下したケース
があります。
このようなWTOは、どのように意思決定しているのでしょう。
WTOの最高意志決定機関である閣僚会議は2年に1回開かれ、コンセンサス(=合意)方式が採られています。このコンセンサス方式によって決定することができない場合のみ、「一国一票」の規則のもとに投票がおこなわれ、過半数の票があれば決定できます。
ただ、実際には閣僚会議の前に四極代表(米、カナダ、日本、EU)と他の先進国と一部の途上国が参加し、グリーンルーム(WTOの事務局長室の壁が緑色なので)方式という秘密会合が行われ、そこで練られたものが本会議に提出され、それが採択されるという図式になっています。この秘密会議は先進国中心であり、途上国はほとんど招かれていません。
その閉鎖性と非民主性がNGOや途上国から批判され続けてきました。
閣僚会議は各国政府の代理人が出席するため、特定の人物によって意思決定できるわけではありませんが、前述のような仕組みから言って四極代表の意向が強く反映されることは間違いありません。国同士のつながりやパワーバランスを考えると米国≒カナダ>日本⇔EUという図式になると思いますので、やはり米国政府の意向が強く反映されると考えてもよいと思います。
また、WTO事務局のサービス部門ディレクター、デビット・ハートリッジは1997年、国際弁護士会社『Clifford Chance』主催の「世界の銀行業にとっての市場開放」をテーマにしたシンポジウムで興味深い発言をしています。
「米国の金融サービス部門、とりわけ『アメリカンエクスプレス』や『シティコープ』といった会社からの巨大な圧力がなかったら、サービス部門についてのいかなる協定もありえなかっただろう。つまり、ウルグアイ・ラウンドもなければWTOもなかっただろうということである。アメリカ合衆国は、サービス部門を議論の日程にのせるために戦ったのである。」
この発言をもとに推察すると、WTOは、国際金融資本の要求に対して忠実な国家と多国籍企業によって形作られた国際機関であるといえます。
○最高意志決定者⇒米国政府=国際金融資本+多国籍企業連合軍
さて、これまでみたように、この三大機関を動かしているのは、米国が中心です。
その米国政府を動かしているのは、第一章で少し触れたように『金融複合体』です。
この『金融複合体』の本体である国際金融資本については次章で詳しくみていきますが、その前に、国際金融資本と共に世界を動かす多国籍企業について考察してみましょう。