「信用創造」の仕組みは
「信用創造」は銀行の重要な役割として、経済学の教科書にもちゃんと載っている。民間銀行は預金残高に応じて、一定割合以上の「準備預金」を日銀に預けるように義務付けられている。準備預金の率は、預金の種類や量によって異なるが、ここでは仮に1%としておこう。
まず、あなたが取引銀行に100万円を預けたとしよう。その銀行は、日銀の口座に準備預金として、1万円を預けることになる、銀行に残った99万円は貸し出すことができるから、Aさんがそれを借りたとしよう。Aさんは商売相手のBさんに、商品の代金として借りた99万円を振り込んだ。すると、Bさんの口座に99万円が入り、その銀行は日銀に準備預金として1%の9900円を頂ける。銀行は、残りの98万100円を、また別の人に貸し出せる。
このような預金→準備預金→貸出→預金→準備預金→貸出……を連鎖的に繰り返していくと、銀行全体でトータル9900万円まで貸し出すことができる、あなたの100万円が99倍になったわけだ。これが教科書で説明されている「信用創造」である。最初の預金を元手に、貸出を繰り返すことで「信用」がつくられるのだから、銀行の役割は、たしかに金融仲介機能といえなくもない。
銀行の機能を正しく説明していない
民間銀行が信用創造できないいま、
日銀がその役割を果たすべき
※経済の教科書にある「信用創造」
預金と貸し出しを繰り返して、世の中にあるおカネが増えていくことをいう。「信用創造」で生まれるおカネは、銀行の預金から生まれるおカネなので、「預金通貨」とも呼ばれる。
不況にある現在、日銀も「信用創造」をすることができるが、あまり積極的に取り組んでいない。
9900万円を一気につくり出す
実際の銀行は、どうやって「信用創造」をしているのか。もちろんどの銀行も、教科書のようなまどろっこしい方法をとっているワケはない。それは、あくまでもタテマエである。
最初にあなたが預けた銀行は、100万円を全額準備預金として日銀に入れる。そして、これを1%にして、残り99%にあたるおカネ、つまり9900万円を誰かに貸し出すことができるのだ。結果的には同じように見えるが、実際には、ひとつの銀行が新たにおカネを生んでいる。この9900万円はどこからやってきたのか。どこからでもない。これが無からつくったおカネ=会計上のおカネ=「信用創造」だ。
たとえば、あなたが銀行から住宅ローンを借りるとする。そのとき銀行は、何をするのか。あなたの預金口座に必要が額が振り込まれるのだが、それはあなたの通帳に単に会計上の数字が打ち込まれたにすぎない。その会計上の数字で、あなたはマイホームを購入することができる。
このようにおカネをつくりだすメカニズムが「信用創造」であり、銀行がおカネをつくればつくるほど、経済のパイは大きくなっていくのだ
いまは日銀だけが「信用創造」できる
もちろん、日銀も信用創造ができる。経済が安定した状態では、日銀がおよそ1割、民間銀行がおよそ9割の信用創造を行なっていた。
だからこそ、かつて日銀は「窓口指導」(※)という方法で、民間銀行の信用創造を巧みにコントロールし、信用統制に当たっていたのだ(日銀の窓口指導は表向きすでに廃止)。
しかし現在、民間銀行は貸し渋り、貸し剥がしをするくらい、貸し付けには慎重になっており、貸出量がマイナスになっている。だからこれ以上、新規に信用創造するのを期待することはできない。信用創造できるとしたら、もはや日銀だけなのである。
「信用創造」によって経済の血液が増え、経済全体のパイが拡大する。いま、回復のカギを握っているのは、日銀の「信用創造」と民間銀行の信用創造を回復させることだけだといって間違いない。
※窓口指導
日銀が民間銀行に対して、資金繰りや融資方針などについて直接指導して、銀行の貸し出しを統制すること。日銀はこの直接指導を、金融政策の中心の手段としてきたが、1991年7月に廃止した。